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EUからの援助額が削減されるバルト三国の覚悟

ご存知のように、バルト海の東海岸に並ぶ三つの国、北からエストニア、ラトビア、リトアニアは、通称バルト三国と呼ばれています。ロシア帝国に支配されていましたが、ロシア革命後の1918年に一度独立を果たします。しかし、第二次世界大戦中は独ソ不可侵条約の秘密議定書によりソ連とドイツの交互支配に翻弄され、戦後は再びソビエト社会主義連邦共和国としてソ連邦に併合されました。
80年代後半のソ連で、ゴルバチョフ大統領の下ペレストロイカが巻き起こると、独立気運が高まり、91年8月に起きた反ゴルバチョフクーデター失敗後に三国そろって再び独立を果たしました。これが12月のソ連崩壊に大きな影響を与えたと言われています。
その後は92年のバルト海諸国理事会の設立と同時に三国とも加盟、新欧米路線でほぼ足並みをそろえ、2004年3月にはNATOに加盟、同年5月にはEUに加盟し、シェンゲン条約に調印しました。2007年12月に同条約を施行し、そろってシェンゲン圏に組み込まれています。2011年からエストニアが、2014年からラトビアが、そして2015年からリトアニアが通貨をユーロに変更しています。
こうしたバルト三国が、ソ連に統治支配された時代を<暗黒時代>と見なしているのは言うまでもないことしょう。しかし、再独立後、気前よく援助してきたEU経済が厳しくなった今、三国は将来的なEUからの援助削減に備えなければならない現実に直面しています。

11月11日付ガゼータRRU電子版(https://www.gazeta.ru/)の記事です。

「バルト三国が、EUからの援助が削減されることで<分相応の生活をする>覚悟を強いられている。ブリュッセルからのエストニア向け援助額は2021年度までに40%削減されるだろう。EU援助額がこのように<切り詰められれば>、農業生産者やインフラ計画に打撃となるだろう、と専門家たちは見ている。近い将来、バルト三国は社会支出を削減し、増税に踏み切らなければならなくなるかもしれない。
バルト三国は国内改革を行う必要性を思案し始めた。2019年春に英国が最終的にEU離脱を果たす。その後EUは新たな7年間予算を採択し、各種ユーロ基金から東欧への金融支援は大幅に削減される見通しだ。
その結果、たとえば、エストニアへのEU補助金は2021年度までに総額で15億ユーロ(40%)削減される可能性があるとする公開年間報告書を、エストニア国家会計検査院が議会に提出している。金融支援の削減は2019年度にも始まるだろうという。
『安定した国家は自身の手と頭で稼ぎ出した資金を基に機能すべきである』と、アラル・カリス国家会計検査院長は声明し、残された時間を必要な経済改革の実施に活用するよう呼びかけた。『我々が選択を迫られるとき、助けとなるのが次なるシンプルな問いかけである:自分たち自身がそうした問題の解決にかかる費用をすべて背負わなければならない時にも、現状のままであれもこれもやれるというのか。その答えを出す前に、思案の間を取る必要がある、今がちょうどその時だ、とカリス会計検査院長は述べた。
国家会計検査院ンデータによると、全体として2014年から2020年までに、エストニアはEU援助金として総額44億ユーロを受け取る。そのうち約35億ユーロが教育・起業精神・交通・情報社会の発展への補助金で、さらに9億ユーロが農業および漁業分野の支援に回される。
同じような声明がラトビアの官僚たちの口からも出ている。ラトビア財務省は、2021年から国家予算にEUから入る資金は実質的に17%少なくなるだろう、と報告した。そうしたシナリオが大いにありうると同財務省は見ている。EUからの援助<切り詰め>は実際にはもっときくなるかもしれない。20%~30%の削減という悲観的なシナリオも提示されている、とポルタル<rubaltic.ru>は伝えている。EUの2014年から2020年までのプログラム枠では、ラトビアは44億ユーロ受け取ることになっている。
同国はこうした援助額削減に改革で立ち向かって補おうとしている。『税制改革の結果、公共投資額はこの損失を補って余りあるほど伸びるだろう』とニール・サクス財務相は強きである。
リトアニアでもEU援助の実質的削減が予想されている。つい最近の国会記者会見で予算及び金融国会委員会委員長のスタシス・ヤケリュナスが声明したように、EU新予算で2020年度から大幅にEU支援額が削減される事態にリトアニアも備えなければならない。
同委員長の判断するところ、リトアニアはEUからの援助を10%から15%カットされるかもしれない。2021年までにリトアニアは全体でEUから援助金として126億ユーロを受け取ることになっている。国内経済のいくつかの方向は、例えば、建設分野や情報技術のように、EU資金に頼りすぎているとするヤケリュナス委員長の言葉を、ポルタル<delfi.lt.>が伝えている。
バルト三国はEUから最大級の援助を受けている国々であり、ブリュッセルからの補助金削減はその経済にかなり深刻な打撃を与えるだろう、と専門家たちは見ている。
『85億8000万ユーロというエストニアの昨年の収入を見てみると、国外から入ってくる援助総額が6億ユーロ以上だった。削減されるとかなり手痛い額である。従来的に、エストニアも例外ではないが、EUからの援助金はすべて、政権には<手に届かない>ようなプログラムに当てられている。教育の充実、IT技術と情報社会の発展、農業や起業の支援などだ。したがって、EU援助が終わった後しばらくの間は、こうした方向や分野での欧州的特恵条件は忘れられてしまう可能性がある』とロシア連邦大統領付属ロシア国民経済&国務アカデミーの経済・社会学部上級講師ボリス・ピヴォヴァールは解説する。
ユーロアジア発展銀行の首席エコノミスト、ヤロスラブ・リソヴォリックの言葉によると、バルト三国にとって国民総生産の数ポイントを占めるEU援助は『ずっしりと感じられる補助金であり』、『それを失えば痛いだろう』。 もちろんこれは国内総生産の10%ではないが、 経済成長には大いに貢献している額である、とリソヴォリック氏は明言する。
ブリュッセルがバルト三国に収入相応の暮らしをすることを教えたいと思った背景にはいくつかの要因がある。バルト三国にはEU側から十分な額の支援が注ぎ込まれているにもかかわらず、EU圏内での貧富の差は縮まっていない、と<フリーダムファイナンス>のアナリスト、ボグダン・ズヴァーリッチは指摘する。『いつかは分配される援助金額の削減プロセスに手をつけなければならなかった。英国のEU離脱決断後に、ドナー国側の不満が強まった。収入が減ったからである。その上、近年波となって押し寄せた難民たちの受け入れに支出されるEU予算が著しく増えた。それゆえ、EUの公式会議の席上では、遅れている経済国を欧州全般のレベルにまで<引き上げる>という考え方よりも、欧州諸国の発展には<様々な速度があっていい>という概念の方がより耳に入ってくるようになっている』と、<フィナム>のアナリスト、アレクセイ・コレネフは言う。
EU側からの援助額が削減されても、バルト三国の安定性が脅かされることはないだろうが、<収入内で暮らす>影響がどういった分野に及ぶか、専門家たちは様々に予測する。
例えばエストニアは、これまで一部EUからの資金援助を受けていたインフラ計画への支出を実質的に減らさなければならなくなるだろう。ブリュッセルの融資額が建設費の80%にも達していたプロジェクトも中にはある、とズヴァーリッチ氏は言う。国内のインフラ計画が近い将来あっさりと取り下げられることも十分に考えられる、と彼は見ている。
そのほかにも、これからエストニアは農業生産者への助成金も絞り出さなければならなくなるだろう。というのも、経済制裁処置とそれへの対抗制裁処置を考えれば、現状でエストニアの農夫たちが助成金なしで生き延びていくことは難しいからだ、とズヴァーリッチ氏は付け加えた。
全体として、EUの支援なしでバルト三国にある種の農業生産物が<存在する>合目的性は、経済的非合理性とロシアといった市場が閉ざされることにより、あっさりと無くなってしまう可能性がある、とボリス・ピヴォヴァールも見ている。
ヤロスラブ・リソヴォリックの意見によると、バルト三国では税制改革を行うことなく<収入内で暮らす>ことはほぼ不可能である。『まずは一連の税を上げ、その徴収率を高めることが必要不可欠となるだろう』と言う。そのほかにも、国家予算支出を切り詰めなければならなくなる。それは、例えば社会的支出といった一定方面の削減のみならず、予算支出項目の大部分を均等に<切り詰める>ことになるだろう、と同氏は予測している。」

EU圏に入りさえすれば、豊かな暮らしができる、というのは幻想です。
バルト三国だけではなく、東欧諸国もウクライナも、そのことを身にしみて感じているのではないでしょうか。


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