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東欧諸国とEUの軋轢

難民移動に関する2015年のEU理事会の決定で発生した義務が、東欧諸国とEUの軋轢に尾を引いています。EU各加盟国に対し、迅速で秩序だった移動手続きを確保するために3か月ごとの受け入れ人数提示を義務付けたものですが、オルバン首相率いるハンガリーは当初からまったく行動を起こさず、2015年10月25日に実施された総選挙でカチンスキ党首率いる保守系野党<法と正義>が圧勝し、8年ぶりに政権交代したポーランドも同年12月以来一人の受け入れも行っていません。チェコも同様で、2016年8月以来、一人も難民を受け入れていない上に、新たな受け入れ枠もまだ表明していません。
特にシリアからの難民の通り道になっているハンガリーが、セルビアとの国境にフェンスを設けて国境を封鎖し、難民を追い返す映像が世界に衝撃を与えました。2016年9月のEU首脳会議を前に、ルクセンブルグのアエセルボーン外相がこれに噛みつき、難民問題でEUの価値観を著しく侵害しているハンガリーはEUから締め出すべきだ、言論の自由も司法の独立も尊重していないと非難すれば、ハンガリーのシャルト外相は、タックスベイブンのルクセンブルグには言われたくない、同郷のユンケル欧州委員長と口をそろえて<負担の公平な分担>を語るとは片腹痛い、と痛烈にやり返しました。
ハンガリーのオルバン首相は、イギリス離脱後のEU のありかたについては統合の深化よりもEUの政策立案の根幹に<ナショナル・アイデンティティ>を取り戻すという立場で、同年10月2日に実施された<EU加盟国間で難民受け入れ人数を配分する政策>を巡る国民投票は、有効投票率50%に届かなかったため無効となりましたが、反対票は98%近くを占めました。
ポーランドのカチンスキ政権も、難民問題にとどまらず、通貨ユーロや財政政策、中央銀行の独立性、エネルギー政策、人権問題などでEUに同調していません。その上、同政権は着々と司法改革を進め、2017年12月8日に、最高裁判所や司法の独立を保障する<全国裁判所評議会>の人事を議会が事実上掌握する関連2法案を下院で可決しました。これに対して欧州委員会は、同国の司法制度が与党の政治的支配の下に置かれ、EU法の適用に深刻な障害が生じるとする懸念を表明し、12月20日にEU基本条約7条に基づいて議決権の一時停止を含めた制裁手続きに着手すると発表しました。ハンガリーが反対しているため、全会一致が必要なこの制裁が実現する可能性は低そうですが、EU内の東西分裂が今後ますます鋭化しそうな情勢です。

こうした東欧の強気な姿勢の背景には、好調な経済とEUの対中央・東欧諸国に対する補助金計画が今年で切れる事情も見え隠れする、と1月28日付のガゼータRU 紙電子版(https://www.gazeta.ru/)は書いていました。

「東欧がますますブリュッセルに盾突いている。なんなくそれが見て取れる。実は、2018年には東欧諸国、特にいわゆるヴィシェグラード・グループ(ポーランド・チェコ・スロバキア・ハンガリー)は過去最大の経済成長を遂げるだろう、と専門家たちは予測しているのである。経済がうまく発展していることが、これらの国々のEU枠での行動にも現れている。彼らは当然ながら自分たちのポジションを考慮するように求めているのである。
EU側には東欧諸国に対して、もっとも急所であるテーマ、すなわち民主主義的原則の順守に関して山ほどのクレームがある。ハンガリーとポーランドに対して、EUはリスボン条約7条をこの2か国に適用し、欧州議会の議決権を停止させようとする方針さえ示している。
両国政府の行っている改革がまずブリュッセルには気に入らない。ポーランドとハンガリーで進められている司法改革は、政権によって司法権を行政権の支配下に置こうとするものだと欧州連合は見ており、難民受け入れに関する両国の法的イニシアチブも人権侵害と見なしている。
しかしながら、ブリュッセルとの軋轢は、東欧が経済レベルで急速に発展していることを打ち消すものではない。ここではハンガリーとブリュッセルはいかなる西欧国家にもハンディキャップを与えている。
昨年、もっとも急速に発展した欧州国はルーマニアで、国民総生産は年間で6,4%の成長を見せた。ポーランドとチェコとハンガリーも、西欧の最先進諸国より密度の高い成長を示し、失業率も最も低かった。低い失業率は国内需要にも反映されている。確かに、いくつかの東欧諸国では、あまりにも低い失業率が問題となってきており、例えばハンガリーでは、大きな人手不足と西欧諸国への大量の人材流出により国内企業にとって人材を見つけることが難題となってきている。東欧地域で最も金持ちの国ポーランドは、特にウクライナからの労働力輸入で、これまでのところこの問題にうまく対処している。
欧州委員会の予測によると、2018年度にもっとも大きな経済成長を遂げるのはルーマニアだろう。エコノミストたちは、経済成長率は4,4%ほどになるのではないか、と予想している。経済成長のもっとも著しい12か国の上位に、中央・東ヨーロッパの9か国が入っている。ルーマニアに少し遅れを取る形でブルガリア、ポーランド、ハンガリー、ラトビア、エストニアが入り、その下にチェコが入っており、これらの国々には3%から4%の成長率が期待されている。
当然ながら、好調な経済指数は東欧諸国の指導者と政府、特にいわゆるヴィシェグラード・グループ(ポーランド・チェコ・スロバキア・ハンガリー)の野心にも反映されている。彼らは、EU枠において自分たちの意見も聞いてもらえる完全な権利を有していると気づかせようとしており、そして、ブリュッセルには彼らに発言させる用意があるという気配もないことから、もっともながらEUとの関係が悪化するに至っているわけだ。 特にハンガリー、チェコ、ポーランドとの関係は悪化した
1月にはハンガリーのオルバン・ビクトル首相が、東欧は(ヴィシェグラード4か国がEUに加盟した)2004年当時にどの国であれなし得ていた以上のことをEU強化のためにしている、と声明した。『EUでもっとも急速に発展している地域であり、東欧無くしてはEUの発展など語れない』とオルバン首相は記者団に述べ、『EUの将来に関する諸問題の議論において、ハンガリーは自らの貢献に相応する役割を果たしたい』と強調した。
ヴィシェグラード・グループが、ブリュッセルと欧州地域ですべてを牛耳っている<旧い欧州>に公然と対抗していることは、これらの国々がEUの大きな会議の前には予備会議を開いていることからも裏付けられる。これがEUの神経を逆なでしているのは当然のことだ。
戦略的評価研究所のセルゲイ・オズノビシェフ所長は、ポーランドその他の東欧諸国でこのところ見られる動きは、彼らが<純粋に西欧的な>やり方に幻滅を感じていることを示しているのではないか、と指摘する。『統一欧州の民主主義的理想に、ポーランドはたとえ全面的に幻滅しているわけではないにせよ、疑いを持ち始めた。一定の反動はあるだろう』とオズノビシェフ所長は言う。
ヴィシェグラード4か国とブリュッセルの関係がもっとも対立した契機はEUの難民政策にある。オルバン首相は中央・東欧諸国は『難民のいないゾーン』であると宣言し、難民たちを『イスラム教徒の侵略者』呼ばわりした。1月初めにブダペストを訪問した際に、ポーランドのモラウィエツキ首相も似たような抗議の発言をした。『EU諸国に押し付けられている難民割り当てについては、我々はそうした政策を断固拒否する。なぜならば、加盟国の主権的選択権に反するからだ。我々の見解として、そうした類の手段を取る権利を欧州委員会は有していない』とポーランド首相は主張している。
この件については、ポーランドのブラシャック前内相も昨年12月に次のように発言していた:配分計画に従って難民を割り当てることをワルシャワが拒否していることに対して欧州委員会がEU裁判所に訴訟を起こしても、我が国に難民政策を変更させることはできない、と。参考までに、ブリュッセルによって強制されている難民割り当てシステムの遵守を拒否したことで、欧州委員会はポーランド・チェコ・ハンガリーに対して制裁措置を取ったのである。これに対してヴィシェグラード4か国は、強制的な難民受け入れ割り当てに関して欧州裁判所で争う姿勢を見せた。
専門家たちは、東欧諸国が大胆にも公然とブリュッセルに<暴言を吐き>始めたのは単純な要因からだ、と推測している。今年、特にヴィシェグラード4か国が少なからぬ金額を受け取っていたEUの補助金計画が終了するからである。ポーランドでは、2014年から2017年までのすべての投資の半分以上は事実上EU助成金で賄われていたし、ルーマニアに至ってはこの助成金が投資総額の60%以上を占めていたのである。EUから受け取る資金の方が東欧ブロック各国の収入をはるかに上回っていたのだ。
『今、ブリュッセルと口論することは客観的には都合がいい。今年から東欧に対するEUの補助金が切れ、義務だけは負わされることになる。しかし、補助金なしというのは、これまでよりもはるかに魅力の少ない現実ではある』と国立モスクワ国際関係大学の政治史学学科助教授キリール・コクティッシュは言う。
ヴィシェグラード・グループ諸国の指導者たちは、それほど遠くない将来に状況はまったく根本的に変わるだろう、と見ている。ハンガリーのオルバン首相の言葉によると、2030年までに『EUに資金を供給するのは主としてドイツとヴィシェグラード4か国になるだろう』という。しかしながら、1月11日の同じ演説の中でオルバン首相は、今後も同地域経済にEUから補助金が入ることを当てにしているとも匂わせた。そして、もし東欧諸国がそうした資金を受け取れないということになれば、他の資金源を探す、と脅しをかけた。『もしEUが我々に資金を保障できなければ、我々は中国を頼る』とオルバン首相は言明したのである。」

以前のブログでも書きましたが、EUからの補助金計画が2018年で終了する事情は旧ソ連圏のバルト三国でも同じです。カネの切れ目は縁の切れ目と言いますが、今後その対応はどう違ってくるのでしょうか。
ついでながら、1月26・27日に行われたチェコ大統領決選投票では、EUに懐疑的でロシアや中国寄りのゼマン現大統領が、EUとの協調路線派のトラホシュ科学アカデミー元総裁に僅差で勝利しています。


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