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「プーチノミクスの驚くべき成功」By Chris Miller

アベノミクスならぬプーチノミクスはそれなりに成功し、国家を安定させている、と認める声はロシア国外でもあります。
2月7日付けフォーリンアフェアーズ電子版(https://www.foreignaffairs.com/)に、「ロシア連邦の経済  プーチノミクスの驚くべき成功―プーチンの権力維持の定式の背後にあるもの」(By Chris Miller)と見出しをうった記事が載っていました。
かつてロシアと並んで世界一の原油埋蔵量を誇り、南米でもっとも豊かな国の一つとされていたものの、今や破たん国家寸前のベネズエラと比較しつつ、プーチン戦略のロジックを分析しています。

「『プーチンは自身の銅像と一緒にロシア経済の崩壊を見つめている』と、2014年末のタイム誌のヘッドラインは書き立てた。かつてはロシア政府予算の半分を賄っていた原油価格が2014年に半額にまでクラッシュしてすでに3年が過ぎた。同年には、西側がロシアの銀行、エネルギー企業、国防セクターに厳しい経済制裁をかけ、ロシアの大企業を国際的な資本市場とハイテク原油採掘装置から締め出した。海外のみならずロシアの多くのアナリストたちも、経済危機はウラジーミル・プーチンが権力を維持することを脅かすかもしれないと思った。今、そんな風には見えない。
今日、ロシアの経済は安定化した。インフレ率は歴史的に低い。予算もほぼバランスが取れている。そして、プーチンは、3月18日投票予定の大統領4選に向けて突き進んでいる。プーチンは、ヨセフ・スターリン以来のロシア長期政権の指導者としてソ連時代のレオニード・ブレジネフを追い抜いた。経済の安定が、80%近くという支持率を裏付けている。プーチノミクスは、繰り返す金融・政治ショックをロシア大統領が生き延びることを可能にした。どうやって彼はそれを可能にしたのか?
ロシアは3ポイントの経済戦略によって原油価格崩壊と西側の制裁という双子の挑戦を生き抜いた。まず、負債レベルとインフレレベルを低く抑え、何よりもマクロ経済の安定に焦点を絞った。第2に、より高い賃金と経済成長を犠牲にしてまでも、低い失業率と安定した年金を保障し、一般大衆の不満を抑えた。第3に、民間部門に効率性を改善させたが、政治的目標と衝突しない部分だけにとどめた。こうした戦略はロシアを豊かにはしないだろうが、国を安定させ、支配階級エリートを権力に留め置いた。
つまりこれは、プーチンは実際に経済戦略を持っているということなのだろうか? プーチン長期政権の一般的解釈は、彼が生き延びているのは石油収入が国を沈没させないでいるからである、というものだ:ロシアの経済は手腕ある経済マネージメントよりも汚職で名を馳せている、と。しかし、クレムリンは異なった経済政策を採用することもできたはずだ。そして、そうしたバージョンのいくつかは、プーチンが権力を維持することをより難しくしたはずだ。ロシア国民の暮らしを一層悪くした可能性さえある。
プーチンが初めて大統領になった1999年のロシアがどんな風であったか、思い起こしてみればいい。石油収入がGDPのかなりの部分を占める中収入の国である。自身の権力を強くするために保安機関を利用する若き中佐に率いられた一国家。公正な手段であれ汚れた手段であれ、ビッグビジネスとオリガルヒに自身のルールに従うよう強制することができる能力に一部基づいた民主主義的合法性のマントルを要求する一人の大統領。
これは、いまだ独裁体制に支配され、いまだ石油収入を頼りにし、いまだ政治的気まぐれよりルールに基づいた経済を建設できていない国家ベネズエラをよく描写しうるものだ。その違いは、故チャベス前大統領派が石油ブーム時代に無謀に消費し、石油生産のミスマネージメントに誘引された崩壊の主人役をつとめる一方、今や想像力乏しき価格統制によって消費財が著しく不足している同国家の現状である。世銀の概算によると、1999年当時ベネズエラはロシアよりも国民一人当たりより豊かな国であった。もはやそうではない。
確かに、道理的に考えて、ロシアが今日のベネズエラのようになるだろうとは誰も予測できなかったのだろうか? 実際には1999年時には、オブザーバーたちの中にはベネズエラはロシアよりも繁栄するより良きポジションにあると考えていた者たちもいたのである。当時、信用評価会社はロシア政府よりもベネズエラ政府にカネを貸したほうが安全だと判断していた。我々が現在ベネズエラと結びつけている経済の諸問題、すなわち消費材の不足、暴走するインフレ、軍の強請する食糧徴用は、ロシアの20世紀のストーリーであった。
1999年に、このストーリーは21世紀にまで持ち込まれないだろうと考える理由はほとんどなかった。しかしながら、今日、ロシアとベネズエラを比較する人はほとんどいない。二人の中佐は極めて異なった戦略を取ったからである。
資源を徴用し、配分するクレムリンのスキルは、なぜロシアのエリートたちがほぼ20年間も権力を維持しえたのか、そしていかに彼らがその権力を海外に行使してある程度の成功をおさめたのか、を説明してくれる。多くの石油独裁企業の幹部たちは、彼らの石油収入をフェラーリやフェンディのバッグに消費した。ロシアのけばけばしいオリガルヒたちは、確かに、英国サッカーチームの分け前やミサイル防御システムを搭載した数億ドルのヨットを蓄えた。しかし、1990年代の繁茂・浪費とは異なって、2000年代に入るとロシアは好景気の間に数千億ドルを蓄え、石油価格が下落した時に使うための予備基金とした。もしクレムリンの経済政策がしばしば描かれるような―石油収入を潤滑剤とした窃盗と失敗の連続として―単純なものであれば、その支配者たちはたとえ2度外国に戦争を仕掛けてさえもその権力を維持しえないであろう。
クレムリンの経済政策の狙いは、GDPや家庭の収入を最大化することではなかった。そうした目標は、極めて異なった政策のセットを必要としただろう。しかし、国内での権力を維持し、それを国外で行使する柔軟性を保有するというクレムリンの目標にとって、マクロ経済の安定、労働市場の安定、戦略的に重要な輸入セクターの国家管理の制限というプーチノミクスの3ポイントは効いた。
マクロ経済の安定から始めよう。ロシアはその経済マネージメントにおいてIMFから高い評価を得ている比較的稀な泥棒政治の国である。なぜか? プーチンチームが政権に就いてから、彼とロシアのエリートたちは債務を返済し、赤字を低く抑え、インフレを抑制することを全般的により優先してきた。1991年と1998年の悲惨な経済崩壊を生き延びてロシアの指導者たちは、ボリス・エリツインとミハイル・ゴルバチョフが目覚めさせてくれたように、国家予算の危機と債務不履行は大統領の人気を急落させ、体制を覆すことさえあることを知っている。
プーチンが初めて権力についた時、彼はロシアの石油による稼ぎの多くを対外債務の繰り上げ返済に充てた。ロシアは確実に収支のバランスを保つために、社会サービスへの支出をカットした。2014年には石油と天然ガスの稼ぎがロシアの政府予算のほぼ半分を占めていたが、今日、石油は2014年レベルの半分の取引量で、これは厳しい予算削減の賜物である。ロシアの赤字レベルはGDPの1%前後で、ほとんどの西欧諸国よりはるかに低い。
プーチンは、ロシア中央銀行が政策金利を上げた時にこれを支持した。それはインフレも抑制したが、成長も止めた。クレムリンのロジックは、ロシア国民は何よりも経済的な安定を求めている、というものである。一方、ロシアのエリートたちは、自分たちが権力を握り続けるためには安定が必要であることを知っている。クレムリンは2014年から厳しい緊縮政策を敷いてきたが、不満はほとんどなかった。
プーチンの経済戦略の第2ポイントは、賃金アップと効率を犠牲にしてまでも、仕事と年金を保障することだった。1990年代の経済ショック期に、ロシア国民の賃金と年金はしばしば支払われず、抗議活動を引き起こし、ボリス・エリツインの人気はがた落ちとなった。それゆえに現在の危機が起きた時、クレムリンは失業率の上昇よりも賃金カットの戦略を選んだのである。ほとんどの西欧諸国との違いを考えてみればいい。2008年の経済危機の後、米国の失業率は急上昇したが、解雇されなかった人々は大幅な給与カットを経験はしなかった。それに対してロシアでは、失業率はわずか1%しか上がらなかったが、2015年に給与は10%近く減少した。クレムリンの同意を得てのみ自分たちの会社を支配している企業オーナーたちは、メッセージを受け取ったのである。賃金カットは許容されるが、工場閉鎖や大量解雇は許容されない、というメッセージを。
これは、多くのロシア国民が斜陽化し、再生の希望もないソ連時代の工場でいまだに働いていると仮定すれば、有効な政策からはほど遠い。経済的観点からすれば、こうした労働者たちはもっと生産的な工場に移したほうがいい。しかし、そうすれば解雇する必要が出てくるので、これは政治的観点から不可能だ。ロシア経済の多くのセクターは、たとえそれほど多くの給料は払わなくても不必要な労働者を雇うという政治的圧力に直面している。これは、通常ロシア人は賃金カットには抗議しないが、解雇されたり工場が閉鎖されたりすれば街頭に繰り出す、というクレムリンの政治的計算に合っている。
社会政策も同じロジックで支配されている。かつて、ロシアの年金受給者たちは年金カットに抗議してデモに繰り出した。それゆえ、政府は健康や教育の財源は減らしているが、年金は安定して払い続けている。クレムリンが、貧しい学校教育が中期的成長を損なう程度を悔いる以上に、年金が政治的安定に寄与していることを評価している証拠でもある。
プーチノミクスの第3ポイントは、クレムリンの政治戦略を傷つけないところでのみ、民間企業に自由な経営を許している点である。オリガルヒの支配する国営企業が一定の基幹セクターで果たしている大きな役割は、失業率を低く保ち、メディアを手なずけ、政治的野党を片隅に追いやることによってクレムリンが大衆を操縦していることを支持するという彼らの意志によって一部正当化されている。例えば、エネルギー企業は政府の財政にとって死活的に重要なので、この分野の民間企業は国家に取り上げられるか、完全に従属させられてきた。製鉄会社はこれほど重要ではないが、同様に大量解雇は避けなければならない。スーパーマーケットといったサービス部門はそうした政治的役割は担っていない。『こと政治に関しては、私はソファに座ってポップコーンをつまむだけです。そして時々、撃
エネルギー企業のボスたちは政治を無視するわけにはいかない。通常彼らは撃たれるか否かの対象である。こうした政治的束縛があるとすれば、ロシアの民間セクターは効率改善や経済成長を推進するどういった希望をもっているのだろうか? いくらかは持っているかもしれないが、そう多くはない。これもまた、クレムリンのロジックに合う。成長は良い、だが権力を維持することはもっと良い、のだ」

国内に有力な対抗馬もおらず、<外国勢力が介入し、ロシアは敵に囲まれている>とロシア国民の愛国心を刺激し、ソ連崩壊後の無秩序と混乱は避けたいという国民心理をうまく捉えて、<安定>を前面に押し出している形のプーチン大統領ですが、再選後も経済の成長エンジンがかからなければ、こうした<安定感>が<閉塞感>に落ち込んでいく可能性は十分に予想されます。
それとも、戦略的な新手のマジックを思案中なのでしょうか?



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