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経済制裁をめぐり密輸業たちとのいたちごっこは続く

経済制裁にはいくらでも巧妙な抜け道があるようです。本当に効果があるものなのでしょうかね
周知のように、欧米諸国が掛けてきた経済制裁への対抗措置として、ロシア政府は欧米諸国からの農産物や食料品の輸入を禁止する措置を取っています。
2015年9月4日のブログでもご紹介しましたが、同年の8月6日にプーチン大統領が出した<密輸入食品廃棄処分令>の威力もあってでしょうか、密輸された食料品の山がブルドーザーで押しつぶされたり、焼却炉に投げ込まれたりする映像が流れて、さすがに一時は批判が高まりました。
しかしながら、その後も密輸業者たちがおとなしくなることはなく、政府が取っている対策も、相変わらず潰したり焼いたりという原始的なやり方みたいです。

12月19日付のイズベスチヤ電子版(https://iz.ru/)が書いていました。

「ロシア農業監督局は制裁対象のほぼ2倍の食料品を廃棄処分した。今年は、約1万トンの制裁対象品が処分されたという。
今年初めから1万トン以上の食料品が税関で没収されたが、これは1年前の1,7倍である。ロシア農業監督局でイズベスチヤに提出されたデータだ。専門家たちは、密輸業者たちは国境をすり抜けて<禁輸品>を持ち込む新たな手口を次から次に編み出している、と指摘する。彼らは偽造文書を活用しているだけではない。あたかもロシアの通過輸送を装って<禁輸品>を持ち込み、結局、第3国までは運ばないのである。
今年の年頭から、ロシア各地の関税所では約1万100トンの制裁対象品が没収され、内9900万トンが廃棄処分された。1年前の数字ははるかに低かった。税関で没収された制裁対象品は6400トンで、そのうち廃棄処分されたのは6000トンだったのである。<禁輸品>を処分する術は相変わらずこれまで通りだ。圧搾機かシリンダーで押しつぶして、炉で焼却している。
ロシア農業監督局はイズベスチヤ紙に対し、植物性製品類のなかで業者たちが国内に運びこむのはリンゴ、かんきつ類、ナッツ、キノコ類が多い、と語った。動物性製品類ではミルク、乳製品、食肉、食肉製品が多いらしい。ロシアに入ってくる制裁対象品をすべて完璧に追跡することは難しい、とも指摘する。こうした製品はユーロアジア経済共同体諸国とのオープンな国境を楽々越えて運び込まれてくるからである。
『それでも我々はもちろん、ロシアになんとか制裁対象品が入ってこないように努力しています。例えば今年は、<禁輸品>がロシアの店舗の棚に潜り込まないように、カザフスタンとベラルーシの国境にいくつか臨時の哨所を設置しました』と、同局のユーリヤ・メラノ報道官は語った。同報道官の言葉によると、こうした施策は制裁対象品に対する大統領令と政府の決定を受けてのものだという。2015年から、農業監督局はロシア国内への輸入を禁止された製品の廃棄処分に責任を負う立場にある。
ロシア連邦税関はイズベスチヤに対し、農業監督局と協力してベラルーシ、カザフスタン、グルジア国境の哨所で任務に当たっている、と語った。税関のデータによると、2017年度はポーランド、ラトビア、リトアニアからの密輸が多かったようだ。
<禁輸品>の廃棄処分量が多くなった点については、農業監督局の仕事ぶりが強化されたからではないか、と専門家たちは見ている。『現実にどれだけの量の製品が密輸されたかを計算するのは極めて困難だし、非現実的でもある。調達者たちは輸入禁止の農産物をロシアの市場に輸送する新手のやり方を次から次に思いついている。例えば彼らは、あたかもロシアを通過するかのごとく商品を持ち込んで、結局は第三国までは行かなかったりするのだ。密輸業者たちの手口は多い。しかし、これまでよりも多くの制裁対象品が廃棄処分され始めたという事実は、ロシア農業監督局が有効な仕事ぶりを見せているということでもある』と、国家牛乳生産者連盟執行局長のアルテム・ベロフは見ている。
国家食肉連盟執行委員会委員長のセルゲイ・ユーシンも同意見だ。彼の言葉によると、制裁対象品の中で、特に肉類は基本的に加工企業に送り込まれるという。『工場はそうした肉を受け入れている。それに、彼らにはそれが制裁対象品であるとわからないケースがしばしばある。密輸業者たちが偽造文書を付けているからだ。こうした偽造文書は本物と見分けがつきにくい。そこにはただ生産国として制裁を受けていない国の名前が記してあるだけだからだ。食肉と食肉製品に関して言えば、南米諸国産と書かれていることが多い。実際には、そうしたやり方で、これまでロシアへの最大輸出国だったドイツやデンマークやバルト三国から商品が持ち込まれているのである』とユーシン氏は解説した。
ロシア連邦関税局のデータによると、2017年度に制裁対象品を密輸しようとした業者に課せられた罰金総額は700万ルーブルであった。」

陸続きの国には国境はあってなきがごとしなのでしょうね。農産物や食料品レベルの輸出入禁止は、ロシアのみならず、欧州の生産者たちにとっても痛手でしょうに、もっと賢明で有効な政治的手段はないものでしょうか。

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プーチン大統領、サブチャック記者の質問に切り返す

昨年の12月14日に開かれた、内外の記者を集めた恒例のプーチン大統領の記者会見についてですが、大統領選への立候補を目指しているクセーニヤ・サブチャックが記者として出席し、注目されました。
プーチン大統領とサブチャック女史のやり取りについて、12月14日付のコメルサント紙電子版(https://www.kommersant.ru/)は次のように伝えていました。

「ウラジーミル・プーチンはアレクセイ・ナヴァルヌィをロシアのサアカシビリと呼んだ。クセーニヤ・サブチャックが反政権派の大統領選出馬を許可するかどうかについて尋ねた。
ウラジーミル・プーチンはアレクセイ・ナヴァルヌィをミハイル・サアカシビリになぞらえ、国民の大部分はロシアが『一つのマイダン革命からまたもう一つのマイダ革命に移行するのを見たくはないのだ』と述べた。大統領はテレビキャスター、クセーニヤ・サブチャックの野党派の大統領選への出馬を容認するかどうか、という質問に対してこのように応じた。
ある専門家は、こうした答え方は司法の判断を引用するよりも説得力があるように聞こえるかもしれない、と評価する。
14日に開かれた恒例の記者会見で、クセーニヤ・サブチャックはウラジーミル・プーチンに、『おそらくご存知だと思いますが、わたしも次期ロシア大統領選に出馬するつもりでいま』と言った。これまでにもサブチャック女史は、公式に自身の出馬を発表する前に、個人的にウラジーミル・プーチンにそのことを伝えた、と語っている。それは、プーチン氏が1990年代にサンクト・ペテルブルグ市役所で一緒に仕事をしていたクセーニヤの父、アナトリー・サブチャックのドキュメンタリー・フィルムのためのインタビューを受けた後のことだった。
サブチャック女史は記者会見にはテレビ局<ドーシュチ(雨)>の記者として出席していた。彼女の言葉によると、『プーチン大統領は討論に参加しないので、これが大統領に質問する唯一の手段だ』というわけだ。
『たとえば、アレクセイ・ナヴァリヌィという候補者がいます。彼に対して、わざわざ作り話の訴訟が起こされました。彼は欧州人権裁判所で自身の身の潔白を証明しましたが、それにもかかわらず、彼は大統領選への出馬を認められていません。このことに関して憲法裁判所は独自の見解を有しているとはいえ、です』とサブチャック女史は自身の質問を切り出した。『同じようなことが、私の選挙活動にも起きています。政治工作をする場所を貸すことが拒否されているのです。反対派であるということは、殺されたり投獄されたりする、ということなのですか?どうしてこんなことが起きるのですか?政権は正当な競争が怖いのですか?』
ウラジーミル・プーチンはサブチャック女史自身のスローガン、<すべてに反対!>を痛烈に批判した。プーチン氏は、テレビキャスターさんは誰に反対し、何に賛成しているのかね、と彼女に訊いた。『ロシア国民の立場で、政権交代のないことに反対しています!』と彼女は答えた。
『そうだと思った』と大統領は応じた。『野党は明確でわかりやすく、ポジティブな行動計画を持って登場すべきである。あなたは<すべてに反対>というスローガンを掲げているが、これがその、ポジティブな行動計画なのかね? あなたは、我々が今日議論しているあらゆる問題を解決するために、何を提案しているのか?』とプーチン氏はサブチャック女史に尋ねた。
大統領はこれまで通り、アレクセイ・ナヴァリヌィの名前には触れなかった。『あなたが言及した人物たちについてだが、失礼ながら、あなたは我が国に数十人のポロシェンコ(ウクライナ大統領)が走り回ってほしいのかね・・・』
政治技術センター副所長のアレクセイ・マカルキンは、ウラジーミル・プーチンは、アレクセイ・ナヴァルヌィは有罪判決を受けている身なので大統領選には立候補できないと説明しようとはしなかった、なぜならば裁判を引用しても、この野党候補者の支援者も反対者も納得させることはできないからだ、と見る。
『ナヴァリヌィの支持者たちは、ロシアには独立した裁判が存在しないと見ているし、彼の反対者たちは、政権は明日にでもその立場を変えるかもしれないと恐れている。例えば、<保守主義者>たちはこんなふうに考える。冬季オリンピックをボイコットする準備をしていたのに、突然、行くことになった、また、ウレンゴイの少年(訳注:ノーボイ・ウレンゴイのギムナジウムに通う男子生徒が、ドイツ連邦共和国連邦議会で、ソ連邦に侵攻したドイツ・ヒットラーの兵士たちをソ連兵たちが殺したことをドイツに謝罪する発言をした)を問題視していたのに、ペスコフ報道官が少年の弁護にまわった等々。そんな風に、明日になれば突然裁判所は、ナヴァリヌィは欧州人権裁判所の決定に基づいて無罪であると裁定するかもしれない。両義性を持たせることは誰も満足させることはできない。大統領ははっきりさせようとしたのである』と、マカルキン副所長はコメルサントに述べた。
プーチン氏は言明した。『サアカシビリ? いったい誰の名前をあなたはあげているのかね? サアカシビリはロシアの出版物にしか登場しない人物だ! あなたは我々に一つのマイダン革命からもう一つのマイダン革命に移行するのを味合わせたいのか? 我々はこうしたことすべてを、オリガルヒたちが黄金の魚を捕りつくして、国家が混濁した沼に変わってしまった時代に、すでに経験済みなのである。1990年代がそうだった。そして今、ウクライナがそうした状況にあるわけだ! ロシア国民の多くはもはやそんなことを望んでいないと私は確信している。我々がそんなことは許さない』 プーチン大統領は『政権は誰も恐れなかったし、誰も恐れてなどいない』と明言した。
アレクセイ・ナヴァルヌィは自身のツイッターで、はっきりした質問を投げかけたとして、クセーニヤ・サブチャックを称賛した。大統領の答え方を独自に解釈して、『今日、プーチンは初めて、わたしを出馬させないことを直接認めた。これは十分に意識した政治的決定である・・・<裁判と前科>についてなど、もはや誰も口にしていない。我々は影響力を持っている。それで、これは有害だと判断したのだ』と反体制派活動家はツイッターに書き込んだ。
2018年の大統領選への出馬をもくろんでいるアレクセイ・ナヴァルヌィは、12月13日に選挙戦公約を発表した。ナヴァリヌィ氏は政治改革、<弾圧的な法案>の廃止、最低賃金を2万5000ルーブルにまで引き上げること、軍隊の契約制への移行を約束している。前出のアレクセイ・マカルキン副所長は、こうした公約は、前科ゆえに大統領選に出馬できないナヴァルヌィに<追加のボーナス>は与えてはくれないだろう、と見ている」

プーチン大統領の反政権派への批判は、「国を不安定化させたいのか」という1点に絞られ、「多くのロシア国民はウクライナの政変がもたらしているような混乱の事態を望んではいない」とする主張に終始しているように見えます。
この記者会見の後、アレクセイ・ナヴァルヌィは24日夜に立候補の申請書類を中央選管に提出しましたが、案の定、選管委員一人は棄権したものの12人が支持して、翌25日に即刻却下が決定されました。同氏はすぐに抗議集会を開いて、大統領選ボイコットを国民に呼びかけています。
朝日新聞が伝えていましたが、何よりも嫌な予感がするのは、14日の記者会見でのロシア人記者たちの政権迎合主義の雰囲気です。サブチャック記者の鋭い質問にはヤジが飛び、反政権派はすべてに反対ばかりで、明確な政策を持っていないとするプーチン大統領の反論に大きな拍手さえ沸いた、と朝日モスクワ特派員は書いていました。
民主主義を支えているのは、曲がりなりにも言論の自由と責任であると私は思います。それが外部からの圧力、自らの自制や迎合で失われていけば、民主主義はその精神を失っていきます。<知>、すなわち自ら考え、判断し、責任を負う力が失われていくからです。
言論を武器とするメディアがその矜持をなくしていったら、その国はいったいどういう方向に進んでいくのでしょうか? それは我が国を含め、どの国でも懸念されることであると私は思っています。





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ロシア国民の民主主義と自由に関する意識調査

年が明けて、3月の大統領選に向けた選挙運動も本格化してきました。
プーチン大統領の他にも30人以上が立候補に意欲を示しているとされますが、圧勝が確実視されているにもかかわらず、政権側は締め付けの手を緩めていません。
大統領選立候補の手続きは昨年の12月18日に始まっていますが、無所属の場合はこの1月7日までに書類を選挙管理員会に提出する必要があります。その上、12月30日から1月8日までは新年のお休みなのです。
大統領選出馬への意欲が高く、早々に選挙運動を開始していた反体制派の筆頭格であるアレクセイ・ナヴァルヌィは、昨年12月25日に中央選挙管理委員会により立候補登録を拒否されました。同氏は昨年2月に横領罪で有罪判決を受けていて、表向きは<刑期を終えてから10年間は立候補できない>という法律が適用された形です。これに反発したナヴァリヌィ陣営は、選挙のボイコットを呼びかける抗議集会を連日開いています。
国際社会の目からすれば、裁判も含めて「これは明らかな反体制派つぶしだ、民主主義国家のやることではない」という批判が強いのですが、ロシア国民自身の民主主義と自由に関する意識はどうなのでしょうか?

12月12日付コメルサント紙電子版(https://www.kommersant.ru/)が、次のような世論調査の結果を伝えていました。

「ロシア国民の大部分は国家に民主主義が存在することは重要だと考えているが、<自由>についての解釈は様々である。フリードリッヒ・ナウマン基金の行った世論調査の回答から結論すれば、多くの人にとって自由とは、<経済的に自立していること>あるいは<誰にも依存していないこと>を意味するだけ、ということになる。さらにロシア国民は、国家のイニシアチブを信用しており、70%に達する回答者たちが、マスメディアの自由が制限されてもいいとしている。
調査によると、回答者の大部分(67,5%)が、自分たちの生活は<少なからず自分たち自身の肩にかかっている>と確信しており、回答者のわずか五分の一が<国家しだいだ>考え、7%が<他人しだいだ>と考えている。残りは回答が困難とした。
64%の国民にとって、ロシアに民主主義が存在することは重要であり(昨年よりほぼ15%増えている)、21.8%にとっては<どうでもよく>、5,4%にとっては将来ロシアに民主主義が存在するかどうかは<重要なことではなく>、6%は民主主義の重要性について回答するのは難しい、とした。その一方で回答者の半数(50,5%)は、同胞たちの大部分にとってロシアに民主主義が存在するかどうかなどそれほど重要ではない、と思っているのである。
ユリウス基金のモスクワ支部長フォン・フライタッグ-ローリングフォーヘンの意見によると、しばしばロシア国民は、<あなたは民主主義を支持しますか?>あるいは<あなたは大統領を支持しますか?>といった質問に対する回答を自分たちから聞きたがっているように感じるようだ、という。そして、多くの場合は肯定的な回答をするが、回答者たちの中で実際のところそれが何を意味するかを理解している人は少ない、ともいう。
自由の定義についても問われた。2番目に人気の回答例は、自由とは<誰にも何にも依存していないことである>(7,3%)、さらに4,9%が、自由とは<経済的に自立していること、物質的豊かさである>と考え、24,8%が、自由の概念に<選択・決意・投票・移動・思想・発言・自己表現の自由>を含めている。
回答者の三分の二(64,3%)が、国家は国民の私生活には全く介入していない、と思っており、25、2%が、国家は<むしろ国民の私生活に介入している>と考えている。10,5%が回答困難とした。昨年度の調査では、国家はロシア国民の私生活には介入していないと回答したのは49、65%だった。調査は18歳以上の1600人を対象に行われた
多くの場合において、ロシア国民は国家を支持するつもりだ。例えば、回答者の52%が、外国企業のロシア進出は制限すべきだと考えているし、58%が、外国製品の輸入制限は国の経済にとって有益である、と確信している。『国内生産者を支えるために外国製の子供のおもちゃの関税を高くする』という政府の提案には、68%の回答者が賛同している。
ユリウス フォン フライタッグ―ローリングフォーヘンの意見によれば、回答者たちの回答はかなり分化しているが、全体として『ロシア社会には権威主義の特徴が認められる』という。回答者のほぼ40%が『たとえば安全のためといった特別なケースにおいては』、国家がマスメディアを管理することを歓迎しているし、30%がいかなる状況においてもそうした管理は必要であるとみているし、マスメディアは完全に自由であるべきである、と考えているロシア国民はわずか25,8%だ。4,2%が回答は困難であるとした。
ロシア連邦では近年マスメディアの仕事を法的に制限する施策が取られている。ロシアテレビを外国エージェントのリストに登録した米国への仕返しとして、ロシア連邦では外国から資金を得て情報を流しているどんな組織でも、<外国エージェントのマスメディア>と見なすことを可能にする法律が機動的に採択された。
一方、世論調査の回答者たちに、あからさまな例(政権を批判するソーシャルネット上のコメントを読むな、と雇い主が従業員に強いる)の評価をたずねたところ、53,2%が雇用者のそうした行為を非難し、37,7%が支持し、9,1%が回答困難としている。」

民主主義先進国の欧米諸国でも、民主主義の概念が大きく揺らぎ、その在り方が根底から問われている時代です。民主主義途上国にあって、国民の意識に差とばらつき、判断の揺らぎがあるのは当然のことでしょう。イデオロギーに偏った頭でっかちの民主主義はどうも受け入れにくい、積極的に支持しにくい、という庶民の感覚もおそらくあると思います。
ちなみに、全ロ世論調査センターが12月中旬に行った世論調査では、83%がプーチン大統領に投票すると回答したそうです。

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社会的抗議グループが連盟結成に向けて初の会合

来年3月の大統領選出馬を決めたプーチン大統領は、14日に年末恒例の内外記者向け大型記者会見を開きました。「税率が高すぎる」「光熱費が上がりすぎる」「有力な対立候補がいないのはなぜか」等々、内政問題では厳しい質問が飛び、国内では課題が山積している実態が浮き彫りになりました。 圧勝が予想されているものの、こうした不満がくすぶって長期政権が飽きられてきている側面もあり、予想外に投票率が低かったり、プーチン自身の得票率が低かったりする可能性も否定できません。
社会にくすぶるそうした不満を掬い上げて組織化しようという動きも出てきています。

12月7日付の独立新聞電子版(http://www.ng.ru/)が報じていました。

「複数の社会的抗議グループで連盟を結成しようと呼びかける初の集会が開かれ、互いを支援しあう活動を行っていくことが決議された。40地域の活動家たちが協力に前向きである。一方、その抗議行動で最も名を馳せている<ロシア長距離トラック運転手同盟>と<礼儀正しい農夫たち>は、今のところまだこの動きには参加していない。
経済・政治改革センターのニコライ・ミローノフ所長が独立新聞に説明したところでは、この同盟はまだ形としては創設されていない。独立新聞がこの記事を書いた時点では、最初の集会が開かれただけである。したがって、今のところはまだ最終的な組織名も規約もない。それでも『事実上、様々な社会活動グループの同盟を結成する動きはあったわけであり、活動家たちは諸々の共同計画についてすでに話し合っている』と彼は言う。『最も重要なのは、以前から全国で抗議活動は増えているが、様々なグループがこれだけの規模で自身の権利と利害を守るために結集することを決めたのは初めてである、という点だ』と付け加えた。
現在、この組織に正式に加わっているのは、独自の運動<国民の団結>を掲げるロストフ州グーコヴォ市の炭鉱労働者たち、ヴォルクータ市の鉱山労働者たち、外貨建てで住宅ローンを組んだもののルーブル暴落で損失を背負わされた人たち、だまされた株主たち、国民運動<住居のために>の活動家たち、である。少し前に開かれた全ロ人権擁護者大会にそれぞれの代表を送り込んだ<農民>と<長距離トラック運転手>たちとは交渉が行われている。
ミローノフは、それぞれのグループの問題解決を個別に目指していくと同時に、抗議活動を含めた共同行動も組織していく計画である、と伝えた。地方ネットワークも作っていく。40のロシア連邦主体から活動家たちが参加するだろう。こうした全活動のコーディネーターには、ミローノフ自身と運動<人権のために>の代表レフ・ポノマリョフがなる。彼らの意見によると、『今、どんなに小さな抗議グループにも、それぞれの声を社会に届けるチャンスが到来している』 権力側が通常やるように、個々の活動家たちに脅しをかけたり裁判に引きずり込んだりして、そうすることによって不満を抱く分子たちが結局何もできないように紛争の火をもみ消すことが決してないように、と。
『自身の権利を守るために立ち上がろうと決意した人々には、今や支援を求めて頼れる者たちがいる。抗議はもはや狭いグループや個々の地域の枠内に閉じこもることはないだろう。地域間の協力がそのローカル化を許さない。そして洗い流されてしまうことも許さない。すなわち、彼らは、ブルドーザーのように容赦なく彼らをつぶしていく国家マシーンの車輪の轟音だけではなく、彼らがその代表である真の国民の団結の力を感じ、聞くことができるのである』と、同盟の宣言草案にある。
ポノマリョフは独立新聞に対し、クバン地方から<礼儀正しい農夫たち>を呼び込むつもりである、と語った。『私は以前から彼らと仕事をしている。長距離トラック運転手たちのデモ行進の後にそのリーダーらに対して起こされた刑事訴訟を止めることもできた』と。
彼は、運動に乗り出した社会的グループの権利が制約された事実を、人権擁護者たちが全国規模で集めている、と述べた。『炭鉱夫やだまされた株主や農民たちの様々な問題ごとに個々のデータベースを作ることになる』と説明した。
ミローノフは、自分たちが抱えているよりもっと大きな問題が色々と存在していることに仰天して、農民たちは今のところこうした動きに参加することを拒んでいると伝えた。一方、<ロシア長距離トラック運転手同盟>は参加について前向きに考えると約束した、という。
しかしながら、ここで深刻な問題が生じた。12月1日、<ロシア長距離トラック運転手同盟>が<外国エージェントのNPO>リストに加えられたのである。同盟のリーダー、アンドレイ・バジューチンは、『我々としては、これは挑発だと思っている。寄付は何らかの組織や基金から寄せられたものではなく、我々のラリーに対して個人から寄せられたものである』と説明した。彼はまた、リストに載せるには様々なファクターの総和が必要であるが、<ロシア長距離トラック運転手同盟>は政治活動は行っていない、とも指摘。寄付は4人のドイツ人から寄せられ、総額24万7000ルーブル、つまり一人当たり1000ユーロだった、という。長距離トラック運転手たちには、それがいったい誰であるのかはわからない。『手元には氏名と銀行書類があるだけだ。ドイツまで出かけて行って、寄付はありがたいが、その寄付をしてくれたのはいったい誰であるか、我々には確かめることはできないのである』
バジューチンは、寄付を寄せてくれた人物が、<通行料金徴収>システムの欧州の経験について<ロシア長距離トラック運転手同盟>が話を聞いた知人のドイツ人長距離運転手たちである可能性も示唆した。
バジューチンは、この新たに付け加えられたな地位が<ロシア長距離トラック運転手同盟>の活動の妨げになることは決してないが、大統領選に参加する諸々のプランには影響が出るかもしれない、と述べた。『今、こうした法律がたくさんできて、真実と公正を求めて発言する人々は外国エージェントのレッテルを張られるリスクを冒している。しかし、重要なポイントは、今や法律によって私は大統領候補者として<ロシア長距離トラック運転手同盟>から推挙されることはできず、同盟の活動家たちは推挙人グループに入ることはできない、ということなのだ。だから私は、100人ではなく、500人を捜し求める必要がある。我々は、モスクワで12月20日から28日にかけて、まだ<ロシア長距離トラック運転手同盟>に入っていない仲間を集める』と強調した。
人権に関する大統領諮問会議のメンバー、イリヤ・シャブリンスキーは、社会的抗議グループの連盟結成を全面的に支持し、同諮問会議の支持を取り付ける努力をすると約束した。シャブリンスキーの意見によると、そうした連盟の結成は<きわめて時期に適っている>、というのも、このところ社会的権利や労働者の権利が現実に制約されており、給与支払いの滞りなどいろいろな問題が生じているからだ、という。」

2016年3月16日のブログ<トラック野郎たちのストライキ>で、重量級の長距離トラックが自動車道に与えるダメージの補償として料金を徴収するという、通称<プラトン>制度の導入に猛反発して長距離トラック運転手たちがストライキに打って出た、という話をご紹介しましたが、それが<ロシア長距離トラック運転手同盟>として力をつけてきて、諸々の社会的抗議グループを刺激する形になっているのでしょう。
欧米の経済制裁の手は弱まる気配なく、何事もなければ大統領4期目を迎えるだろうプーチン政権の今後に、暮らしの悪化とともに溜まっていく小さな不満は、ボディブローのように効いてくるのではないかと予感されます。




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<メイド イン ロシア>製品の輸出は伸びている?

一般の人は、ロシア製品と言えばマトリョーシカぐらいしか頭に浮かばないでしょう。
資源頼みの輸出構造を何とか変えようと、ロシア政府はずいぶん前から悪戦苦闘を続けていますが、現実は何ともお寒い状況のようです。
11月26日付ガゼータRU電子版(https://www.gazeta.ru/)が、第5回<メイド イン ロシア>輸出フォーラムの実態を、次のように伝えていました。

「資源外のロシア製品の輸出が伸びている? しかし、この方面で政府の貢献度はゼロに近かった。輸出促進の<ロードマップ>は結局この5年間で実現化されないままだった。そしてロシアは今だもって、例のごとく、レース製品やマトリョーシカやブルドーザー<КамАЗ>シリーズや自動小銃カラシニコフで世界の目を引こうとしているのである。
今週、第5回<メイド イン ロシア>輸出フォーラムが開かれた。フォーラムの目的は、資源外の国産輸出製品の潜在力を示し、国外に商品とサービスを売り出していくための国の支援制度を討議することだ。フォーラムを開催したのは第一副首相のイーゴリ・シュワロフだが、官僚たちは壇上に上がる前に、ロビーでロシアの輸出製品のサンプルを眺めて回った。フォーラム向けに輸出品の中でも最高級品が展示されていた:ありとあらゆるマトリョーシカ、蜂蜜、<ロシアンティー>、ヴォーログダ州のレース製品とフェルト製品などなど。そのほかにも、ワインやマカロニ、スキーウェア、エンジンオイル、ミニチュアのガントリークレーンまであった。
マトリョーシカ制作会社の代表はガゼータRUに、わが社の製品は外国人たち、特にフランス人やイタリア人やスイス人の間で人気がある、とアピールした。注文品を除いて、300種類のマトリョーシカが手描きで制作されている。そのほかにも同社は現代のトレンドとして、例えば一つのマトリョーシカに三つのタイプを入れ子とした作品も販売している,という。今年はどれだけのマトリョーシカが輸出されたか、と突っ込んだ質問をすると、商品は基本的に、各都市の国際空港内やロシア鉄道車両内の<デューティフリーショップ>を通して、ロシア国内で消費されている、と認めた。つまりこの場合、輸出業者というステータスは借りのもので、こちらがあちらに出ていくのではなく、あちらがこちらに来てくれているのである。
ヴォーログダ州のレース製品の職人も、この製品がよく知られている欧州諸国の名前をほぼすべて列挙したが、マトリョーシカ同様にレース製品も、基本的にはモスクワのサドーヴォエ環状線の内側で買いつくされている。
これに対してマカロニ生産工場は実際に、隣国ベラルーシからカナダ、ブラジル、タイ、日本に至るまで、世界35か国にその製品を輸出している。同社が海外市場を開拓し始めたのは7年前のことだ。輸出業者はずいぶん前から自立しているというのに、国家支援の制度がなぜ必要なのか、わからない。そんなものはほとんど必要ないだろうに・・・
『<メイド イン ロシア>のブランドで国際見本市に出展する費用の一部を補助してもらっています』と、同社代表は答え、やはり何も出ないよりはいいですからね、と付け加えた。
次なる輸出業者は、世界最大級の民間石油採掘会社の一つだった。フォーラムに展示されていたエンジンオイルは、すでに100か国で販売されている。毎月の輸出量は5万トンである。
<カラシニコフ>と<КамАЗ>もそうだが、この種の輸出業者は恥ずかしげもなく借方に記入する。政府から国産品輸出の後見人とされてまんざらでもない。国外進出するためにしかるべき特恵に値するとされるブランド製品を、全部で約30も抱えている。しかし、リストには2012年以降、つまり政府が<メイド イン ロシア>製品とサービスで世界に打って出ようと決意した年以降に登場した新ブランドは一つもないのである。
政府は、2000年代にロシアにやってきて、ロシア娘にほれ込んで、カフカスに自身のワインハウスを創設した生粋のスイス人ワイン醸造者レノ ビュルニエの事業さえも功績に仕立てている。彼はスイスにも醸造者を抱え、ワインを生産しているが、かの地ではロシアワインはたとえブランドものであっても必要とされない。そこで彼は自社生産のワインをロシアで販売しているのである。ロシアの官僚たちの援助は受けていない。
550トン級までのガントリークレーンや舗装用クレーン等を生産している会社は、国の保護を必要としている。しかし、予測通り、国外の競争相手には負け続けている。輸出はわずか5%にしか満たず、主にユーロアジア経済連盟諸国に普及しているが、何のことはない、ソ連時代に培われた協同組合関係で売られているのである。
『輸出を伸ばす可能性はありません。投資が足りない。つい最近も、ウラジオストク近郊の造船工場<ズベスダ>から大きな注文が出ましたが、我々を素通りしていきました。受注したのは中国企業でした』と、同社工場のマーケティング担当は言う。
中国の競合会社は、借金を抱えたロシアの国内生産会社には提示できない特恵的な金融条件を提示した。しかし、会社の代表は、我々はそれでも政府官僚たちが実体経済の諸問題を熟知していると期待して、この輸出フォーラムに参加している、と言うのである。
輸出フォーラムに参加したそれほど先進的ではない残りの企業代表たちは、ロビーに残らず、<ロシア国産品―国外で認められる>と題された総会や<ロシアの輸出成長の新たな視点>と題された会議で政府代表たちが何をしゃべるかを聴くために、そそくさと議場内に入っていった。
シュワロフは何も新しいことは言わなかった。西側の対ロ制裁が解除されるならば、対抗制裁をとらない用意がある、とだけ述べた。輸出入停止が解除されるかもしれない日付は具体的にはあげず、1年後になるかも知れないし、10年後になるかも知れないと述べた。同第一副首相は1月のガイダル・フォーラムでも似たような発言をしている。
そのほかにもシュワロフ第一副首相は、輸出に軸足を置く企業が助成金をもらえるかどうかという、おそらくもっともピリピリした問題について次のようにコメントした。『助成金について言えば、実際我が国ではこれらの助成金がすべて合目的的に活用されているわけではない』この分野を担当している責任者たちの言葉によると、今、助成金に関しては<まったくみっともない事態>が生じている。したがって、この制度は改革する必要がある。シュワロフは、輸出業差たちにあらゆる提案を出してもらって、来年に<ロードマップ>を準備すると約束した。これでフォーラムは、事実上閉会した形であった。
輸出業者支援プログラムは、2012年に着手され、111の施策を含んでいる。結局、その80%が遂行されただけだった、とシュワロフ第一副首相は閣僚会議での報告で認めている。さらに19の方策を追加する計画が決定された。関税管理、国境通過所の設計と建設、書類手続きの簡素化を改善することなどが含まれている。言い換えれば、官僚たちはこの先数年間書類作業は行う、と請け合ったのである。さらに輸出業者の最後の一人に及ぶまで、延々と輸出援助メカニズムは修正・改善されていくだろう。
その間にいくつかの製品分野は輸出市場でその地位を明け渡すであろう。例えば貴金属である。ロシアはダイヤモンドと金塊を輸出して、毎年50し億ドルを稼いでいる。しかし、これは資源貿易だ。付加価値のつく貴金属製品の輸出は、<ロシア貴金属組合>長エドゥアルド・ウトキンの試算によれば、2014年度と比較して2016年度は7分の1に大崩れした。今年はさらに沈むだろう。2500億ドルの貴金属製品世界市場で、ロシアの占める割合は0,1%に過ぎない。
ビジネス業界は、ロシア国内の行政的障害が取り除かれるまでは、そして地政学的要因が解消されるまでは、政権が現実的に支援してくれて、海外市場でしっかりと稼げようになるとはそれほど信じていないように見える。
『我々は短期的な利益ではなく、我々より長生きするブランドをいかにして作っていくか、について考えなければならない』と、<実務ロシア>党首のアレクセイ・レピックは思案する。公式統計は資源外の輸出がいい方向に動いていることを示している。2017上半期の資源外輸出額は570億ドルで、2016年同時期と比較して18、7%多い、と貿易産業省付属景気分析センターは指摘しているのだが・・・」
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まったく変わり映えしませんね。
ティーセットや紅茶やチョコレートや細々した民芸品などを扱う個人輸入業者は、日本にもそれなりに存在しているみたいですけれど・・・

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EUからの援助額が削減されるバルト三国の覚悟

ご存知のように、バルト海の東海岸に並ぶ三つの国、北からエストニア、ラトビア、リトアニアは、通称バルト三国と呼ばれています。ロシア帝国に支配されていましたが、ロシア革命後の1918年に一度独立を果たします。しかし、第二次世界大戦中は独ソ不可侵条約の秘密議定書によりソ連とドイツの交互支配に翻弄され、戦後は再びソビエト社会主義連邦共和国としてソ連邦に併合されました。
80年代後半のソ連で、ゴルバチョフ大統領の下ペレストロイカが巻き起こると、独立気運が高まり、91年8月に起きた反ゴルバチョフクーデター失敗後に三国そろって再び独立を果たしました。これが12月のソ連崩壊に大きな影響を与えたと言われています。
その後は92年のバルト海諸国理事会の設立と同時に三国とも加盟、新欧米路線でほぼ足並みをそろえ、2004年3月にはNATOに加盟、同年5月にはEUに加盟し、シェンゲン条約に調印しました。2007年12月に同条約を施行し、そろってシェンゲン圏に組み込まれています。2011年からエストニアが、2014年からラトビアが、そして2015年からリトアニアが通貨をユーロに変更しています。
こうしたバルト三国が、ソ連に統治支配された時代を<暗黒時代>と見なしているのは言うまでもないことしょう。しかし、再独立後、気前よく援助してきたEU経済が厳しくなった今、三国は将来的なEUからの援助削減に備えなければならない現実に直面しています。

11月11日付ガゼータRRU電子版(https://www.gazeta.ru/)の記事です。

「バルト三国が、EUからの援助が削減されることで<分相応の生活をする>覚悟を強いられている。ブリュッセルからのエストニア向け援助額は2021年度までに40%削減されるだろう。EU援助額がこのように<切り詰められれば>、農業生産者やインフラ計画に打撃となるだろう、と専門家たちは見ている。近い将来、バルト三国は社会支出を削減し、増税に踏み切らなければならなくなるかもしれない。
バルト三国は国内改革を行う必要性を思案し始めた。2019年春に英国が最終的にEU離脱を果たす。その後EUは新たな7年間予算を採択し、各種ユーロ基金から東欧への金融支援は大幅に削減される見通しだ。
その結果、たとえば、エストニアへのEU補助金は2021年度までに総額で15億ユーロ(40%)削減される可能性があるとする公開年間報告書を、エストニア国家会計検査院が議会に提出している。金融支援の削減は2019年度にも始まるだろうという。
『安定した国家は自身の手と頭で稼ぎ出した資金を基に機能すべきである』と、アラル・カリス国家会計検査院長は声明し、残された時間を必要な経済改革の実施に活用するよう呼びかけた。『我々が選択を迫られるとき、助けとなるのが次なるシンプルな問いかけである:自分たち自身がそうした問題の解決にかかる費用をすべて背負わなければならない時にも、現状のままであれもこれもやれるというのか。その答えを出す前に、思案の間を取る必要がある、今がちょうどその時だ、とカリス会計検査院長は述べた。
国家会計検査院ンデータによると、全体として2014年から2020年までに、エストニアはEU援助金として総額44億ユーロを受け取る。そのうち約35億ユーロが教育・起業精神・交通・情報社会の発展への補助金で、さらに9億ユーロが農業および漁業分野の支援に回される。
同じような声明がラトビアの官僚たちの口からも出ている。ラトビア財務省は、2021年から国家予算にEUから入る資金は実質的に17%少なくなるだろう、と報告した。そうしたシナリオが大いにありうると同財務省は見ている。EUからの援助<切り詰め>は実際にはもっときくなるかもしれない。20%~30%の削減という悲観的なシナリオも提示されている、とポルタル<rubaltic.ru>は伝えている。EUの2014年から2020年までのプログラム枠では、ラトビアは44億ユーロ受け取ることになっている。
同国はこうした援助額削減に改革で立ち向かって補おうとしている。『税制改革の結果、公共投資額はこの損失を補って余りあるほど伸びるだろう』とニール・サクス財務相は強きである。
リトアニアでもEU援助の実質的削減が予想されている。つい最近の国会記者会見で予算及び金融国会委員会委員長のスタシス・ヤケリュナスが声明したように、EU新予算で2020年度から大幅にEU支援額が削減される事態にリトアニアも備えなければならない。
同委員長の判断するところ、リトアニアはEUからの援助を10%から15%カットされるかもしれない。2021年までにリトアニアは全体でEUから援助金として126億ユーロを受け取ることになっている。国内経済のいくつかの方向は、例えば、建設分野や情報技術のように、EU資金に頼りすぎているとするヤケリュナス委員長の言葉を、ポルタル<delfi.lt.>が伝えている。
バルト三国はEUから最大級の援助を受けている国々であり、ブリュッセルからの補助金削減はその経済にかなり深刻な打撃を与えるだろう、と専門家たちは見ている。
『85億8000万ユーロというエストニアの昨年の収入を見てみると、国外から入ってくる援助総額が6億ユーロ以上だった。削減されるとかなり手痛い額である。従来的に、エストニアも例外ではないが、EUからの援助金はすべて、政権には<手に届かない>ようなプログラムに当てられている。教育の充実、IT技術と情報社会の発展、農業や起業の支援などだ。したがって、EU援助が終わった後しばらくの間は、こうした方向や分野での欧州的特恵条件は忘れられてしまう可能性がある』とロシア連邦大統領付属ロシア国民経済&国務アカデミーの経済・社会学部上級講師ボリス・ピヴォヴァールは解説する。
ユーロアジア発展銀行の首席エコノミスト、ヤロスラブ・リソヴォリックの言葉によると、バルト三国にとって国民総生産の数ポイントを占めるEU援助は『ずっしりと感じられる補助金であり』、『それを失えば痛いだろう』。 もちろんこれは国内総生産の10%ではないが、 経済成長には大いに貢献している額である、とリソヴォリック氏は明言する。
ブリュッセルがバルト三国に収入相応の暮らしをすることを教えたいと思った背景にはいくつかの要因がある。バルト三国にはEU側から十分な額の支援が注ぎ込まれているにもかかわらず、EU圏内での貧富の差は縮まっていない、と<フリーダムファイナンス>のアナリスト、ボグダン・ズヴァーリッチは指摘する。『いつかは分配される援助金額の削減プロセスに手をつけなければならなかった。英国のEU離脱決断後に、ドナー国側の不満が強まった。収入が減ったからである。その上、近年波となって押し寄せた難民たちの受け入れに支出されるEU予算が著しく増えた。それゆえ、EUの公式会議の席上では、遅れている経済国を欧州全般のレベルにまで<引き上げる>という考え方よりも、欧州諸国の発展には<様々な速度があっていい>という概念の方がより耳に入ってくるようになっている』と、<フィナム>のアナリスト、アレクセイ・コレネフは言う。
EU側からの援助額が削減されても、バルト三国の安定性が脅かされることはないだろうが、<収入内で暮らす>影響がどういった分野に及ぶか、専門家たちは様々に予測する。
例えばエストニアは、これまで一部EUからの資金援助を受けていたインフラ計画への支出を実質的に減らさなければならなくなるだろう。ブリュッセルの融資額が建設費の80%にも達していたプロジェクトも中にはある、とズヴァーリッチ氏は言う。国内のインフラ計画が近い将来あっさりと取り下げられることも十分に考えられる、と彼は見ている。
そのほかにも、これからエストニアは農業生産者への助成金も絞り出さなければならなくなるだろう。というのも、経済制裁処置とそれへの対抗制裁処置を考えれば、現状でエストニアの農夫たちが助成金なしで生き延びていくことは難しいからだ、とズヴァーリッチ氏は付け加えた。
全体として、EUの支援なしでバルト三国にある種の農業生産物が<存在する>合目的性は、経済的非合理性とロシアといった市場が閉ざされることにより、あっさりと無くなってしまう可能性がある、とボリス・ピヴォヴァールも見ている。
ヤロスラブ・リソヴォリックの意見によると、バルト三国では税制改革を行うことなく<収入内で暮らす>ことはほぼ不可能である。『まずは一連の税を上げ、その徴収率を高めることが必要不可欠となるだろう』と言う。そのほかにも、国家予算支出を切り詰めなければならなくなる。それは、例えば社会的支出といった一定方面の削減のみならず、予算支出項目の大部分を均等に<切り詰める>ことになるだろう、と同氏は予測している。」

EU圏に入りさえすれば、豊かな暮らしができる、というのは幻想です。
バルト三国だけではなく、東欧諸国もウクライナも、そのことを身にしみて感じているのではないでしょうか。


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裸の俳優が舞台に登場するとは何事ぞと、メジンスキー文化相

本当にずれている文化相ですね。
政治経済はともあれ、いやしくも文化に携わる立場の官僚や役人に必要なのは、最低限の理解度と寛容度と教養でしょう。
メジンスキー文化相が、モスクワ芸術座の演劇生たちが指導教授の下で上演する演劇スタジオ公演に、裸の俳優が登場したと怒っているそうです。
11月8日付のノーバヤ・ガゼータ電子版(https://www.novayagazeta.ru/)が書いていました。

「ウラジーミル・メジンスキー文化相が、モスクワ芸術座演劇学校スタジオのイーゴリ・ゾロトヴィーツキー学長に、同スタジオの舞台に裸の俳優が登場したのはどういうわけかと、説明を求めた。リアノーボスチが伝えている。
『子供たちに何を教えているのか、ただ興味深く感じただけだが』と彼は述べ、「幸いにも私自身はこの無条件に天才的なお芝居を観てはいないがね・・・』と付け加えた。文化相は、裸の役者が舞台に登場したという事件自体についてはマスコミで知ったのである。
ドミートリー・ブルスニーキンの下で学んでいる演劇生たちが上演したイリヤ・ズダネヴィッチの戯曲の舞台化にまつわる話である。芝居の途中で裸の俳優が登場したのだ。舞台は、シューキン名称演劇大学の俳優にして教師のウラジーミル・ポグラゾフによって中断された。彼は同僚の裸に憤慨し、つかつかと舞台の上にあがっていったのだった。
メジンスキー文化相の意見によると、『演劇の革新者』はモラルに関する自身の理解をよみがえらせる必要がある。観客がまさに舞台の進行中に憤りを表明するということは、彼らは演劇に何かもっと違ったものを求めているということなのである、と彼は言う。
『自身のためにではなく、おそらくはほんの少しでも気分良くなるために劇場にやってくる観客のために、芝居を上演しているのだと理解する必要がある。』と付け加えた。『俳優たちがああした格好で出てくるということは、彼らにも演出家にも観客に見せるべきものが全くないということである。なぜならば、これは才能云々といった話ではなく、演出家としての能力や俳優としての能力がミニマルであるという話だからだ。実際、悲しむべき話である』とメジンスキー文化相はコメントした。
同文化相は、こうしケースにおいては文化省が創造プロセスに介入するだろう、とも述べた。『国立劇場は、ましてや演劇学校スタジオは、モラルの規範を大切にしなければならない。この芝居を上演しているのが学生であればこそ、なおさらである』とメジンスキーは述べた。
渦中のドミートリー・ブルスニーキンは、通信社<モスクワ>に対し、学生たちがこの芝居を上演するのを禁じるつもりはない、と述べていた。同氏の教え子たちの作品は一度ならず上演されている、と彼は言う。ポグラゾフの行動については、彼が舞台に駆け上がってきたことで演劇生たちが別に<うろたえたりしなかった>のであれば、それは<上演作品の一部>となりえたということである、とコメントした。イリヤ・ズダネヴィッチ(ロシアの未来主義やダダイズムなど様々なアバンギャルドの潮流に加わった作家)の言語は『シューキン名称演劇大学の御仁にはちょっとわかりづらかったのだろう』とも皮肉った。ブルスニーキン氏は同僚に、オベリウとは何か、ダダイズムとは何かについては、知っておいた方がいいとアドバイスした(訳注:オベリウとは、1920年代末にレニングラードで活動した不条理文学のグループ。30年代以降ソ連では完全に無視されたが80年代後半になって再評価され、前衛芸術運動の先駆者として脚光を浴びた。オベリウは<リアルな芸術連盟>の略)
<演劇>誌の編集長マリーナ・ダヴィードヴァは、舞台に裸体が登場するのは、舞台に衣装を着た人間や黒いチューブが登場するのと同様に、ごく自然な表現手段である、と言明した。『文化大臣氏の述べられた意見は、この現代文明の時代には存在しようもないものです。私は年中世界を旅行して回っており、舞台に裸の俳優たちが登場する芝居も数えきれないほど見てきました。これらの舞台は決して才能のない作品ではなく、時として極めて才能豊かな作品でした。時として死すべき人間の肉体のはかなさや社会的諸問題をテーマとしたものでした』と彼女は語った。」

こんな人物が文化相を務めている限り、ロシア現代文化の先行きが危ぶまれますが、そこは歴史も伝統も奥行きも深いロシアのこと、気骨のある文化人やインテリゲンツィア階級はまだまだ健在であると信じたいところです。

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出生率の低下は欧米の経済制裁だけに因るものか?

私は読んでいないのですが、米誌フォーリン・ポリシーが<西側の制裁がロシアの人口を縮小させている>という内容の記事を掲載したのだそうです。
当然ながら、ロシアの官僚やアナリストたちは、こうしたいささか一面的な論拠には反駁しています。
11月8日付の独立新聞電子版(http://www.ng.ru/)が、出生率の低下を含めたロシアの人口学的状況について、その原因にも触れて、次のような記事を書いていました。

「官僚たちは死亡率の低下ばかり報告するが、出産率も下がった。専門家たちはこうした傾向を人口学的崩壊と呼び、米誌フォーリン・ポリシーは<西側の制裁がロシアの人口を縮小させている>という記事を掲載した。
今年初めから死亡者数は3万2000人減った、と社会問題担当副大臣オリガ・ゴロデッツは報告した。同副大臣は、ロシア連邦の平均寿命が72,5歳になったことは『保健制度全体の確かで大きな成果である』と述べた。しかしながら、ロシア統計局のデータによると、2017年の9か月間で生まれた子供の数は127万2000人で、これは2016年の1月-9月期よりも16万4000人(11,5%)少ない。
官僚や幾人かのアナリストたちは、人口学的数値の悪化を石油収入の落ち込みと西側の制裁に伴った2014年から2016年の経済危機に糊付けしようとする論拠に反論する。出生率の低下は、経済の深刻な落ち込みによって国が人口学的な穴に落ち込んだ90年代にすでに埋め込まれていた、1987年と1993年の間で出生数はほぼ二分の一になった、というのが彼らの言い分である。
『2015年から2020年までは、四分の一世紀ごとに繰り返されるネガティブな人口学的周波が一度に共振する』とプーチン大統領は述べた。こうした周波は、大祖国戦争時代と90年代の経済危機時代の出生率低下によって説明される。今、後者の出生率低下時代にこの世に生まれた若者たちが子供を作る時代が来たのである。
それでもすでに1995年から2001年までには130万人近くのベビーが誕生し、2004年にこの数値は初めて150万人に達し、2007年には160万人を突破、2008年に170万人の数字に到達し、その後2012年からは2016年も含めて毎年190万人のベビーが生まれているのである。
しかし、昨年、初めての警鐘が鳴り響いた:2016年度、国内で誕生した子供の数は2015年度よりもほぼ5万2000人少なかったのだ。自然死の傾向も表面化し始め、昨年度は死亡者数が誕生者数を2200人上回った。
政治クラブ<ロスバルタ>の専門家たちは、2017年度にはこの数字は10万人を超えるだろうと予測する。つまり、2倍3倍ではなくて、100倍単位で増えていくというのである。
公正を期して述べておく必要があるが、現代ロシアで誕生者数が死亡者数を上回った恵まれた年はたった3年しかなかった。2013年から2015年までは約3万人のプラスだった。そしてこれは実際、1995年から2005年まで毎年100万人もの人口を<失っていた>国民の業績でもあった。一方では10万人の切れ目など国にとっておそるるに足らずだが、また一方では、あの崖っぷちには誰も戻りたくないというところなのである。
『出生率が所得に左右されることは疑いない』と<テレトレード>社のアナリスト、マルク・ゴイフマンは言う。『2014年に国民の実質所得は0,7%減少し、2015年には3,2%、2016年にはさらに5,9%も減少している。2017年9月には、2016年9月に比して0,3%の減少だ。これは平均的な数字とはいえ、将来子供を持つ可能性が現実に減少していることを示すものである』
『出生率は社会の空気を推し量るもっとも確かなインジケーターの一つである』とプレハノフ名称ロシア経済大学のキリル・パルフェノフ助教授は述べた。『子孫を持とうという心構えには様々なファクターが作用し、総体として<子供を独り立ちさせることができるかどうか>という形で決定されうる』という。こうしたファクターの一覧表で決め手となるのは、平均レベルでの安定した収入だけではなく、明日への確信、良質な医療サービスや教育の存在である、と。
以上の指摘は明白なことではあるが、統計が示すところ、必ずしも正しくはない。総和して出生率が最も高いのは、生活水準と社会分野の発展が低いアフリカ諸国なのである。一方、先進諸国では人口減少問題が深刻だ。ロシアでも、満ち足りている連邦主体の出生率は経済破たん寸前の連邦主体よりも低い。出生率の低下を経済危機で説明しようとする試みは、表面的な判断であって、残念ながら正しくはない。人口学にあっては、正確な判断を下すという役割は経済には存在しえないのである。
『出生率の低下に影響を与えたのは主として経済的ファクターではあったが、それだけではない』と、ネットカフェ<ダブルビー>創始者のアンナ・ツファスマンは独立新聞に述べた。『基本的な原因は生活レベルの低下に潜んでいる。もう一つの要因は、(主として経済に起因するものではいえ)、社会の不安定感と不安感のレベルが上がったことである。明日はどうなるのか確信が持てなければ、明らかに出生率は上向きようもない。こうした状況を正すためには、国家は母親支援といったポイント的な施策ではなく、国民の生活レベル全体を向上させる総体的な努力が必要不可欠である』と指摘する。
『我が国では家族を営む施策に振り向けられる予算が極めて少ない』と社会科学的審査研究所のセルゲイ・ルィバレチェンコ所長は言う。『子供向け予算は国民総生産の0,5%から0,6%レベルだ。一方、人口学的状況が良好な欧州諸国では4%から5%である』
『経済の落ち込みと国家予算の大幅赤字で、国家は出生率を上げる施策を取ることができなかった。母親手当は2年前に指数化されることをやめ、生活水準が全般的に低下する傾向と社会分野の停滞を打ち破る力をもはや持っていない。その重要性を疑う余地はないものの、このプログラムが施行されてきた10年間で、様々な援助証書が750万世帯に発行されたが、受け取った金額の92%は住居条件の改善に当てられていたのである』とマルク・ゴイフマンは指摘する。
まさにこうした住居問題の解決が、すでに子供がいる家庭がもう一人子供を作ろうとする大きな刺激になるかもしれない、と大統領付属の子供の権利全権大使アンナ・クズネツォーヴァは見ている。クズネツォーヴァが引用したロシア統計局のデータによると、2016年度に住居を必要とする子だくさん家庭として登録されていた13万1000世帯の内、5000世帯以上が住居を保障されたという。子だくさんの家庭を支援する施策の対象は、3人以上の子供を持つ家庭だけではなくなってきている、とも彼女は指摘した。『子供がいる家庭の内、もう一人子供が欲しいと計画している若い家庭もその対象として浮上してきている』と言うのである」

出生率低下と人口減少問題では、ロシアも日本もそれほど変わりはありませんね。


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ロシア宗教界指導者たちの見る創造の自由

10月24日にモスクワのユダヤ博物館で、ロシア正教会キリル総主教の主催の下に、ロシア宗教間会議が開かれました。
このロシア宗教間会議は、1998年12月23日に、ロシア正教・イスラム教・ユダヤ教・仏教の各宗教共同体指導者の共同会議を基盤として設立されたものです。なにしろロシア連邦は多宗教国家ですからね。名誉議長はキリル総主教で、様々な宗教と様々な民族のはざまにある世界を補強し、民族間紛争を燃え上がらせるために宗教感情を利用することに抗して、社会に伝統的な倫理的価値観、調和と安定を確立することをその活動の目的としました。
後述しますが、おそらくはロシア映画<マチルダ>の公開を巡る社会の動揺を念頭においたものと思われますが、今回の会議では<創造の自由>が大きなテーマとなりました。

10月24日付コメルサント紙電子版(https://www.kommersant.ru/)の記事です。     

「会議にはロシアの伝統的宗教の指導者たちが集い、文化および芸術に携わる人々にはその活動に責任を持つように呼び掛け、また社会には何をどう評価するかについてよく考え、様々に持ち上がる意見の相違を善意ある対話で解決するよう心掛けるように呼び掛けた。
ロシアのユダヤ共同体連盟の提案により、今回の定例会議はユダヤ博物館および<寛容性のセンター>の敷地内で行われることになった。会議開始前に、ユダヤ共同体連盟会長のアレクサンドル・ヴォロダとラビのベルル・ラザルがキリル総主教に博物館を案内して回った。キリル総主教は興味深げに展示品を見て、ホロコースト犠牲者の名前が書かれた壁の前で追悼の蝋燭を灯した。その後、宗教活動家らに伴われ、会議が行われる博物館の中2偕に上がって行った。
『我々の会議は1917年10月革命百周年記念を前に開かれる。革命は、信者たちを迫害し、寺院を破壊し、全面的な反宗教プロパガンダを展開するという、まことに悲惨な結果をもたらした出来事であった』と、総主教は演説の冒頭で述べた。『過ぎ去った世紀を振り返るに、これまでに見たこともない可能性を人間に提供した未曽有の科学技術の発展も、数百万人の犠牲者を生んだ恐るべき悲劇を未然に防ぐことはできなかった。その原因はどこにあるのか? 多くは、神のいない生活を築こうとして攻撃的に、これ見よがしに宗教を拒否し、倫理的価値を忘れてしまったことにある』
現代性ということに触れて、総主教は『今日われわれは特別な注意をもって、人として個人の価値とは何を意味するのか、ということに向き合っていかなければならない』と述べた。
『どれほど人の暮らしが破壊されてきたか、どれほど人間の尊厳が政治的・イデオロギー的動機の気の向くままに蹂躙されてきたか・・・自由をやりたい放題と混同してはならない。人間の権利と自由の概念は、倫理的な責任感についての理解をもって補足されなければならないものである。いかなる場合においても、自由と権利のテーマは、自身の潜在的あるいは目に見える敵対者に打撃を与えることを目的とした思惑や、ある一定のイデオロギー的システムを構築するためのテーマとはなりえない』
総主教の言葉によると、『ロシア正教会の立場からすれば、人間の自由と権利のヒューマニスティックな解釈が、中絶やホモセクシュアリズム、安楽死といった罪深い現象を社会標準として容認するという社会通念を確立するために利用されることは受け入れられない』『もしわれわれが人間を神から引き離すならば、尊厳はその拠り所を失ってしまう』と総主教は主張する。
『もしかすると、真の自由とは人間にとって聖なるもの貴重なものを抹殺することであると言い表されるのであろうか? もちろん、そうではない。挑発と冒涜が始まっているところでは、人間の自由は意識的に制約されるべきである』
他の宗教的指導者たちも総主教を支持し、倫理性について発言した。ラビのベルル・ラザルは『この世界では何事も破壊せず、正しく生きることが必要だ。自分の周りにいる人々を大切に守る必要がある。・・・残念ながら、現代は自由教育の世紀であり、学校や職場や社会のあらゆる分野でわれわれは様々な侮辱に直面している』と述べた。『信者たちの感情や宗教的価値を侮辱することは自由ではない。これはもっとも恐ろしい結果に至る冒涜である。人間に対する侮辱、神に対する侮辱である』
『今日、宗教的価値や民族的価値が嘲笑と愚弄の対象に成りつつあるのは悲しむべきことだ』と、ロシアに住むイスラム教徒たちを精神的に統治している中央局のタルガット・タジュディン・ムフティは述べ、創造的インテリゲンツィア層に祖国のために共同して働こうと呼びかけた。
『ソ連時代には人々の間にこれほどの憎悪はなかった。我々は今、憎悪の空気の中に生きている』と、ラビのアドルフ・シャエヴィッチも強調した。もっとも、現代世界の大きな問題は、どういうものであれ狂信現象であると彼は考えている。
『どういった分野であれ狂信は、信仰を持つ人間はいかに生きるべきかという戒律から人を乖離させる。話題の映画<マチルダ>をめぐる熱狂を観察していると、ここでもやはり極めて強い狂信が渦巻いているように私には思えるのである。あなた方の、ロシア正教会首脳部の忍耐強さに、正直言って私は驚いている。なぜならば、自身を総主教より聖なるものと位置付けていると言ってもいいような人々がこれほど多くいるということに、驚愕してしまうからである』 ラビの意見によると、そうした羽目を外した人々は正道に戻したほうがいい。
最後に宗教指導者たちは、『ロシアの伝統的な宗教は、個人とその権利、そして神より与えられた人間の尊厳に相応するものとわれわれの考える創造の自由も含めた個人の自由の高い価値について、常に語ってきた』と特筆した宣言を採択した。
『創造と自己表現の自由は、その他のいかなる自由と同様に、絶対的なものではない。その表出は社会的モラルが求めるものや自分とは違う人々、世界観の異なるグループ、宗教共同体の権利によって制限を受けるべきものである。・・・残念ながら、この創造の自由が、聖なるものに対する嘲笑の正当化や不道徳のプロパガンダ、宗教的価値や民族的価値の侮辱に利用されていることが稀ではないと、確かに認識せざるを得ない現状がある』と宣言文にある。
宣言文の執筆者たちの意見によると、『事実を歪曲したりや国の歴史的重要人物を中傷したりすることで、人間の尊厳を卑しめようとする芸術作品を創ることにはいかなる正当性もない』『すべての文化人と芸術家たちに呼びかける。自身の活動に責任を持ち、芸術作品が人間の魂と社会全体の精神状態に与える影響というものを考慮してほしいと。・・・なぜならば、モラルの規範を欠いた自由は善のためにではなく悪のために利用されるかもしれず、その芸術家自身の苦しみについては言わずもがな、人間の自己崩壊と社会の劣化を招きうるからである』
ロシア宗教間会議のメンバーの一人は,『今日、我々の眼前にある重要な課題は、個人にとっても社会全体にとっても倫理的価値が束の間のものではないことを立証することである』と言う。
宣言は述べている。『我々は、芸術に携わる人たちが愛と慈悲の理想の精神で人間の啓蒙に寄与する自分たちの共同者だと思っているし、創造共同体の代表者らとの対話にはこれまでどおりオープンである。真理に反するいかなる行動も攻撃や過激主義も断固として非難しつつ、我々は社会を構成する誰もに対し、価値について熟考し、生じてくる意見の相違を好意的な対話で解決する態度を保ち続けることを呼びかける。我が国の将来は、我々一人一人が宗教的文化的伝統と歴史的記憶、互いの人としての尊厳に対する尊敬の念を発揮することにかかっているのである』

実は今ロシアでは、有名なバレリーナ、マチルダ・クシェシンスカヤとロシア帝国最後の皇帝ニコライ二世の禁断のロマンスを描いた映画、アレクセイ・ウチューリン監督の<マチルダ>が社会に波紋を呼んでいるそうです。
ロシア正教会ではニコライ二世は聖人に列せられていますので、過激な宗教活動家や国粋主義者たちが皇帝の名を汚すとして、監督のスタジオに放火したり、公開予定の映画館に車で突っ込んだり、映画館の放火を予告したり、様々に脅迫したりと、ちょっとした騒ぎになっているらしいのです。
ロシア当局は<マチルダ>の公開に反対する活動家たちの過激な行動を断固阻止すると言明、文化省も公開を支持し、プーチン大統領も10月13日に「公開中止を求める過激行動は容認できない」として警察が取り取り締まると述べましたが、国会では同作品はニコライ二世を中傷する内容だとして、クリミア出身の某女性議員が公開反対の立場を主張しています。
聖書は愛読するものの、本質的には無宗教で敬虔さを欠く私などは、そこに人としての尊厳を傷つける侮辱や悪意がなければ、ニコライ二世の人間的な部分を描いた映画が作られて何が悪い、と思ってしまいますが、皇帝を神と同一視する人たちにとっては違うのでしょうね。ちょっと理解しがたいところです。
政治的にプーチン大統領は、基本的にロシア正教会が支持するところの保守的で国粋主義的な宗教右派的イデオロギーを否定することなく、ロシア正教会とも良好な関係を保ちながら、自身の支持基盤に取り込んできましたが、そのかじ取りが微妙に難しくなってきている感じですよね。


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現代世界の政治でトップに立った女性政治家たち

テレビ司会者として人気のある女性ジャーナリスト、クセーニヤ・サブチャックが、突然3月のロシア大統領選に出馬すると宣言しました。この人の存在がなければプーチン大統領の現在もなかっただろうと言われる元ペテルブルグ市長故アナトリー・サブチャックの娘さんです。プーチン氏はサブチャック氏に勧誘されてKGBから政治家に転身し、その後はとんとん拍子に政治世界で出世しました。
クセーニヤさんがもし候補者として登録されることになれば、大統領選に挑んだロシア現代史上3人目の女性ということになります。

10月22日付ガゼータRU電子版(https://www.gazeta.ru/)が、現代世界の女性指導者を列挙しながら、幾分皮肉も交えて、次のように書いていました。

「クセーニヤ・サブチャックが今週、自身の政治綱領さえまだ持たないなかで、次期大統領選に出馬すると宣言した。サブチャックが来年3月のロシア大統領選の女性候補者となるには時間不足でおそらく間に合わないだろうが、仮に間に合ったとしても、もっとも準備不足の候補者となるのはそのとおりだろうと言えよう。
ガゼータRUが、政治の世界でトップに立った女性たちについて語る。
ジャーナリスト、テレビ司会者、社会活動であるクセーニヤ・サブチャックは、英紙ガーディアンのインタビューで、自分には政治的重みはないこと、何らかの政治綱領を出したり、あるいは大統領候補者として出馬したりする権利さえまだ得ていないことは率直に認めた。彼女はさらに、勝利するチャンスはほとんどないことはわかっているが、政権と意見の異なるすべての人々の<避雷針>として発言することはできる、と付け加えた。
確かに、大統領選に参加する避雷針の役割はそれほどわからぬでもない。大統領選挙戦中、サブチャックは、国の諸問題によく通じているロシア共産党のゲンナジー・ジュガーノフやヤブロコ党のグリゴリー・ヤブリンスキーといった政治的大物たちと議論を闘わすことになる。議論が国際政治に及べば、サブチャックは本領を発揮できるかもしれないという期待は残る。
周知のように、彼女はモスクワ国立国際関係大学の政治学部を卒業しており、しっかりした教育を受けている。学位論文のテーマはフランスとロシアの大統領制の比較分析であった。両国には実際に多くの共通点があり、さらにロシア憲法の草案者の一人は将来の大統領選候補者の父、法律家のアナトリー・サブチャックで、彼もフランスの基本法から少なからず借用していた。
批評家たちは、この新たな大統領候補者を評して、クレムリンが手を伸ばして担ぎ上げた人為的な候補者だと批判している。それと同時に、サブチャックが完全に独立した人物だとしても、ロシアの大統領選で女性候補者が成功をおさめることは今のところまだ難しい。
2017年3月8日の祝日(国際女性デー)にレヴァダ・センターが行った世論調査によると、今後10年から15年の間に女性がロシア大統領になってほしいと思っているロシア国民はたったの33%なのである。
もしサブチャックが大統領候補者として登録することになれば、彼女はロシア現代史上で大統領ポストを狙った3番目の女性ということになるだろう。これまでに女性が国家首脳の職務に就く候補者となったケースは2度ある。中央選挙委員会現委員長のエーラ・パンフィーロヴァが2000年に<市民の尊厳>党から出馬し、得票率は1,01%だった。2004年の大統領選に<右派連合>から出馬したイリーナ・ハカマダは3,84%の票を獲得した。
これらの女性たちは経験に不足はなかった。パンフィーロヴァは民主主義的変革の波に乗って政界入りし、<ペレストロイカ>時代に上院議員となった。イリーナ・ハカマダは女性起業家たちの権利擁護に関わり始めた時に、政治活動に足を踏み入れた。
ハカマダとパンフィーロヴァは、まったく違ったタイプの女性であることを指摘しておくべきだろう。ハカマダが欧州タイプの毅然とした政治家のイメージだとすれば、パンフィーロヴァは情に熱いことが持ち味である。パンフィーロヴァと一緒に仕事をしたことがある官僚の一人は、1990年代の経済変革期に、社会的支出を守ろうとして涙を抑えることができず、それが当時のエゴール・ガイダル首相の心を動かして、彼女が主張する論拠を認めた、というエピソードを語ってくれた。
多くの政治技術屋たちは、2018年の大統領選に女性が参加することは十分に予測可能だ、大統領選のシナリオになにがしか規格外のものを持ち込み、政治における遺伝子上の平等を装うことができるからである、と主張したがっている。
ロシア社会の中では女性大統領のイメージはそれほど大きな共鳴を得ていないが、世界政治では女性は時として前代未聞の頂点を極め、男性と堂々と勝負している。
前米国務長官で民主党員のヒラリー・クリントンは、その大統領選挙戦で女性であるという要素を極めて巧みに活用し、それによって多くの支持者を引き寄せた。彼女は女性の間で少なからぬ信頼を勝ち取り、中には彼女の立候補にまったく熱狂してしまった女性たちもいる。
クリントン自身も自身の女性像を積極的に利用した。『私が女性だからという理由だけで私に投票してくださいと頼んでいるのではありません。実体としての私に投票してくださいとお願いしているのです。私は、自身が女性であり、女性としての視点をホワイトハウスに届けることができるということを、強みの一つと考えています』
確かに、「Hillary the other woman」を書いたドリー・カイルは、ガゼータRUに対し、ヒラリーのイメージの裏には熟練したマニピュレーターの顔が隠されている、と語った。『ビル(元米大統領でヒラリー・クリントンの夫)は言っていたわ。ヒラリーが自分にとって必要なのは、彼女が僕のお尻をたたいて、僕がキャリアを築き始めるのを助けてくれるためだったって。ヒラリーはビルを支配するようなやり方で彼に影響を与えた。なぜなら、幼少時に彼を4年間育てた祖母を思い出させたからよ。彼の祖母はかなり高圧的な人物で、彼を厳しく扱ったようよ。』
ヒラリー・クリントンと違って、ジルマ・ルセフはブラジルで初めての女性大統領となることに成功した。彼女は2度の大統領選に勝利し、左派的な信念と社会的公正の考え方でブラジル人たちの間で名を馳せた。ルセフ自身は不屈の闘士で、祖国が独裁下にあった時代には数年間投獄され、公式情報によると残酷な拷問も受けたとされる。
しかしながらルセフは、弾劾裁判で失職し、大統領2期目を全うすることができなかった。2期目就任後早々に、議会にかけることなく政府会計を不正操作した背任罪を野党に問われたのである。
長期政権の記録保持者としてはドイツのアンジェラ・メルケルが挙げられるだろう。彼女は2005年にドイツ首相に選出され、ドイツ歴史上初の女性首相となった。
2015年にニューヨークタイムズとフィナンシャルタイムズは、メルケルを<今年の人>に選んだ。それだけではなく、このドイツ首相は数年間、フォーブ誌の特集する<もっとも影響力のある女性100人>のトップの座を占めていた。
近々では2017年9月23日の総選挙で、<キリスト教民主同盟>党首アンジェラ・メルケルは勝利をおさめたが、選挙戦の結果は彼女にとって極めて複雑なものとなった。右翼国家主義政党<ドイツのための選択肢>がかなりの議席数を獲得したのである。同党を躍進させたのも、共同代表だった女性政治家ウファウケ・ペトリ―であった。
4回目の選挙を勝利したメルケルは、16年間ドイツを統治した自身の政治の師であるヘルムート・コールの記録を破った。2015年から2016年にかけて難民が押し寄せた状況にもかかわらず、アンジェラ・メルケルはドイツ社会に会って大きな信頼を維持するのに成功した。
仮にメルケルを長期安定政権の例とすれば、バングラデシュのシェイク・ハシナ首相の場合は波乱に富んでいる。 その政治キャリアにおいて反体制の立場により幾度も暗殺されそうになり、2007年には恐喝容疑で逮捕されもしたが、1年後に祖国を出て米国に逃れた。しかし、その年に祖国に戻って1カ月後の議会選挙で勝利をおさめ、最初に首相に就任してからほぼ13年後にバングラデシュ首相に返り咲いた。選挙の結果、シェイク・ハシナ率いるアワミ連盟は3分の2以上の議員数を獲得して圧勝し、バングラデシュ政府を組閣した。
多くの女性政治家が真似たいと思う例は、おそらく英国のマーガレット・サッチャー首相である。多くの人たちが、彼女は20世紀史上もっとも影響力のあった政治家の一人であると考えている。彼女は、英国の経済生活を向上させた経済改革の立役者だ。確かに、その一方で、彼女の政策に対して多くの炭鉱夫たちが行った大規模デモを蹴散らしたときには、その厳しさを多くの野党政治家たちが批判した。当時サッチャーの外交政策顧問だったパウエル卿はガゼータRUのインタビューで、サッチャーに異議を唱えることはいつも難しかった、と語った。『サッチャーの首相時代、そんなことはありえませんでした。彼女がこうだと言えば、すなわち、そうだ、ということでしたから』と。」

政治の世界に限らず、女性は強いのですよ。
11月15日付のノーバヤ・ガゼータ電子版(https://www.novayagazeta.ru/)によりますと、クセーニヤ・サブチャックは<市民イニシアチブ>党の大統領候補として選挙戦を闘うことで、同党首アンドレイ・ネチャーエフと合意したそうです。<市民イニシアチブ>党は、12月の20日前後に党大会を開いて、サブチャックを大統領候補として承認する予定です。
「もし党大会で承認されれば、<市民イニシアチブ>党の候補者として大統領選に臨むことを、ここにお伝えできてうれしく思う。同党のイデオロギーと価値観は、未来を志向する一欧州国としてのロシア国民の将来、自由や人権についてのわたしのビジョンと一致している。我々はこれまで通り、すべての民主勢力の結集を呼び掛けていく。些細な意見の相違や満たされない野心についてはひとまず忘れて、結集すればこそ勝利できるだろう」と発信したそうですが、後半は一強に立ち向かっていく場合に日本でもよく耳にした言葉ですね。
ちなみに、政治の世界で活躍する女性の数では、先進諸国の中で日本は相変わらず最下位だそうですけど・・・

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